何度も人生に傷ついて、
それでもまた人生に救われる
原題 TYRANNOSAUR
製作年度 2010年
製作国・地域 イギリス
上映時間 98分
監督 パディ・コンシダイン
出演 ピーター・ミュラン/オリヴィア・コールマン/エディ・マーサン
妻に先立たれた失業中の中年男ジョセフは衝動的な怒りを抑えられず、酒を飲んではところ構わず大暴れする自暴自棄な毎日を送っていた。そんなある日、ひょんなことからチャリティ・ショップで働く女性ハンナと出会う。明るく優しい彼女は、誰からも相手にされないジョセフに対しても身構えることなく自然に接し、いつしか彼の凝り固まった心をほぐしていく。ところがそんなハンナにも、人には言えないある暗い秘密があったのだが…。
酒を飲んではケンカを売ったり、飼い犬にまで当り散らす。自分の怒りをコントロールできない男、ジョセフは親友さえもが明日をも知れない命で、
ただ一人のよき隣人である少年も、誰も立ち入れない大人の事情をじっと耐えていて、
それもジョセフのストレスであったろう。
とにかく彼を取り巻くものに対しても、何より自分自身に怒っていて、
それら全てと仲良く出来なかった男が、
心を静めてくれたハンナと出会い、興味を惹かれていく物語。
何も無いことで怒り、孤独を募らせ爆発するジョセフとは逆に、
今にも溢れるほどの思いを堪え、平静を装うハンナ。
男は失う事に怯え、女にすがり、
女は、、、神や酒にすがる。――共に追い詰められていたふたりが出会った。
まだ青い、大人になる為の漠然とした不安のある思春期ではなく、
それまでの人生が及ぼし、人生のツケも感じる......渇いた大人の、思秋期―。
この邦題はなかなかイイのではないでしょうか。
未知のものに揺れる、来る春ではなく、
大人の秋は、失うものへの怖れと、縛りに満ちた去りゆく秋、この邦題は味わいがあります。
ハンナと心が通じて、落ち着いたジョセフが終盤にとる行動は、
イーストウッドの「グラン・トリノ」を思い出させ、胸騒ぎを覚えますが、
果たして……
全ての方にオススメという作品ではないですが、
イギリス映画らしい作品だと思うので、「やわらかい手」「ル・アーヴルの靴みがき」
等の作品がお好きな方なら、きっと本作も味わえるのではないでしょうか。