BSプレミアム 日曜夜10時 全8話
原作 桐野夏生
脚本 浅野妙子
音楽 大島ミチル
出演 鈴木京香、高橋一生、濱田龍臣、前田公輝、品川徹、杉本哲太、中原ひとみ
先日今季、冬ドラの初回感想記事でもご紹介した、
鈴木京香さん主演のNHK BSで放送されていた「だから荒野」が終わりましたので、
ちょこっと粗筋、感想を記録しておきます。
第1話≪逃げる主婦≫
専業主婦の朋美は、46歳の誕生日に、自分の家族の冷やかさに家庭を捨てる。
誰もが自己中で自分を必要としているとは思えない。
とりわけ夫にとって都合のいいママタク扱い、人格を無視する暴言にキレて
着の身着のまま、殆ど夫が自分で運転する事のない車を駆って衝動的に旅に出る――
第2話≪もう一つの人生≫
好意から車に乗せた百合に一夜明けたら車を乗り逃げされ、
ヒッチハイクで乗せてくれた男には娼婦と間違われ、、
突然の雨に濡れそぼっていた朋美を拾ってくれた亀田青年と山岡と共に長崎に向かうことになる。
翌日姿を消した亀田に代わり、山岡を長崎に送り届けた朋美は、初めて泊まったネットカフェで
次男・優太のブログをみつけ、一緒に暮らしていた時には知らなかった彼をみつける・・・
第3話≪初恋の男≫
友人の計らいで初恋の宮内に会った朋美は、嘗ての輝きを失った彼に失望。
その頃家では家事をしに来ていた浩光の母に朋美の家出を知られる。
見栄っ張りの夫は周囲に妻はハワイ旅行中であると嘘をついていたが、周囲も疑っている。
貯金の残高に不安を感じ、食堂で働き始める朋美は山岡のボランティア先から呼び出され…
謎の青年・亀田の嘘に突き当たる―
第4話≪母親失格≫
朋美はネットカフェを出て山岡と同居。生活費を渡すが、ある日ソレが消える。
そして突然ガスが止められ、料金未納だと回答され疑念を抱く。。。
原爆で一人生き残った自分を罪深いという山岡に、朋美は知佐子に「優太ならあげるわよ」と言ってしまった自分は、母親失格だと打ち明ける。
第5話≪息子の家出≫
亀田が傷を負って山岡家に転がり込み、優太も朋美の書き込みからヒントを得て
長崎にやってきて、再会を果たし、山岡家にやってくる。
山岡の付き添いで祈念館にやってきた優太は、入場者に無視されながらも語り続ける山岡の姿に
強い印象をもち・・・
朋美は亀田に抱いた疑念を山岡に窘められる。人を信じる事を学びなさいと。
第6話≪妻と夫≫
優太の作った砂漠のジオラマを見て涙を流す亀田の姿に、朋美は自分を恥じる。
百音に乗り逃げされた車がみつかり、連絡を受けた朋美と浩光は大阪の警察で顔を合わせる。
会社の夫婦同伴コンペもあり、帰ってこいと言われるが、「車は百音にあげた」と証言し
浩光には「もっと大人になれ」と、長崎に引き返す。
第7話≪悪魔と天使≫
亀田が老女から詐取した金を返せと、山岡家に弁護士がやってくる。信頼を裏切られたとして
朋美は亀田を追い出し、優太は亀田を追いかける。。。
後日、亀田が山岡から詐取したお金を置いて立ち去ろうとするが、山岡は招き入れ、
「私は深い罪を犯した」と、語り始める…―
最終話≪告白≫へ―…
物語の主人公は、きっとどこにもいる、中流家庭の主婦。家庭は冷え切っていたが
それなりに息子や夫の為に家計をやりくりし、頑張ってきたつもりだった。が、
ある日、家族への怒りが堪えきれず、一歩踏み出し、
気が付くと、荒野に佇む自分をみる。――
荒野、、
ナゼ、荒野、、、
何が足りなくて息苦しい・・・?
誰もが沃野にいて、チョットばかりの家族の不満を嘆いているひとばかりではない。
この主婦のように、家族の誰もが自己中であっても、孤独を感じているヒマなんてない人も居るかも知れない。
ましてや愛する人が他にいるとかの理由もなく、家族をサッパリと捨てられるものか?
追い詰められた時に取る行動。そして、その後、人はどう生きていくのか?
山岡老人と出会ったことで、自分の姿を顧みる事ができた朋美と優太―
その山岡の傍にいながら、第3の眼として現れた朋美の必死に生きる姿に変っていく亀田。。
そして、
実は山岡こそ、ガンに侵され、被ばくの語り部を続けながらも孤独に送っていた日々に
雨の中で何も持たない両手を空に向かって差し出す朋美の姿に、無心からくる逞しさを感じ、
励まされ、支えられていたのですね・・・
そして、ずっと心を閉ざし、人のことになど関心も無く生きてきた優太には、
山岡の少年の日の罪と悔恨が伝わっていたんですね~・・・彼も荒野にいたのですから。
語り部として何十年も過ごしてきながら、自分の心の中に巣食っている
本当の罪の意識を語る事を避けてきたので、聴く人の心には届いてこなかった――山岡。
語り部の会の、優太の正直な自己開示に、
言葉に詰まった優太のあとを引き継ぐように話し出す山岡の語りは、これまでと違い
聴く人の胸に迫ってきました、、、ここにきてストンと納得できる、
祈念館での、相手を捉えていないこれまでの山岡の語り。。。
ここでも、浅野妙子さんの脚本のチカラを感じられます。
朋美の家出直後の散々な幾つもの出会いが、全て長崎に導いていた多過ぎる偶然とか、
ツッコみどころもありますが、それは問題ではない。
家族と言う本来は豊かな沃野であるはずの場所にいて気づかなかった、築けなかったものを、
朋美と優太は、ふと知り合って同居する他人の中で育んでいき、
それは、独りで生きてきた山岡や亀田にとっても同じだったのですね。。。
そして、朋美が捨てた長男・健太も、家を出て他人と暮らす生活の中で気付きをえます。
ヒントは、知らない土地。知らない他人。そこで交わって生きていく事――でしょうか。
当たり前のことなんてナイ。水(愛)を切らさないように、、心を注ぎ続けて、
荒野も沃野も、それぞれが自分で創っているのですからね。
音楽も良かったし、最後までダレることなく面白かったです