母さん、僕が怖い?
製作年度 2011年
原題 WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN
製作国・地域 イギリス
上映時間 112分
脚本 リン・ラムジー 、ローリー・スチュワート・キニア
監督 リン・ラムジー
出演 ティルダ・スウィントン/ジョン・C・ライリー/エズラ・ミラー
イギリスの女性作家に贈られる文学賞として著名なオレンジ賞に輝く、ライオネル・シュライバーの小説を映画化した家族ドラマ
自由を重んじ、それを満喫しながら生きてきた作家のエヴァ(ティルダ・スウィントン)は、妊娠を機にそのキャリアを投げ打たざるを得なくなる。それゆえに生まれてきた息子ケヴィン(エズラ・ミラー)との間にはどこか溝のようなものができてしまい、彼自身もエヴァに決して心を開こうとはしなかった。やがて、美少年へと成長したケヴィンだったが、不穏な言動を繰り返した果てに、エヴァの人生そのものを破壊してしまう恐ろしい事件を引き起こす。
― 私たちは、ケビンについて話し合わなければならない ―
若い頃のエヴァは、恐らくは旅行作家としての自信に満ちて、自由奔放。
それを象徴するプロローグの熟した赤。そして狂気の鮮明過ぎる赤――。
しかし、
物語は日差しを浴びて揺れる白いカーテンの向こうに私たちを誘うのでした……
これは、、先日観た「ふがいないぼくは・・・」の逆バージョンの夫婦というか、
今、望んだわけではないのに妊娠し戸惑ううちに出産してしまったキャリアウーマンの人生。
単純に妻の妊娠を喜び、息子誕生を喜ぶ夫フランクリン........。対照的な、
出産直後、ベッドで見えない何かに魂を奪われたようなエヴァの表情がこの後の
全ての始まりを予感させます。
初めての子育ては誰もが手探り。
親になりたての誰もが多少の不安と怖れと緊張と、沢山の戸惑いを繰り返し、
それでも様々な要求を繰り返し、泣いて知らせる赤ちゃんの寝顔に見惚れるものだと思うけど、
エヴァは、自分にだけ懐かないケヴィンと孤独な闘いを始める事に…―
知恵がつくようになってからの、父親に対するのとは明らかに違うケヴィンの母に対する態度は、
恐らくもうその時には、エヴァは、漠然と気が付いていたのだろうと考えます。
妊娠中に、その命を喜ばれていないケヴィンに、悟られてしまったのではないか、、、
それが事実であるだけに負い目となって、エヴァは夫に話す事が出来ずに、
ケヴィンは成長し、今度は自ら望んで妊娠する――
親は見返りを望まず、無償の愛を子供に注ぐ。
それが当たり前のように云われるけど、、そうだろうか?
愛をこめて子供に尽くし、子供が自分を親として認知して笑いかけてくれる。
その幸せ。。それを求めるのが親だと思う。そして、
その瞬間をたっぷり味わいながら、親と子は絆を手繰り寄せていくのでは?
泣いて拒否られていた乳児のころから、堪えて学ぼうと努力もするエヴァに、
ケヴィンの悪意のある挑発も成長と比例してエスカレート。
夫はそんな事実から目を逸らし、よき父、優しい夫の部分だけを演じる。。。
それでもエヴァが踏ん張ってこれたのは、、
親としての責任感と、女としてのプライドもあっただろうけど、
そんなケヴィンとのサシの戦いの中で生まれた、彼女の母性だったのではないだろうか。
そして、矢は放たれる。――
記事を書きながら女の内の母性に絡んで「レボリューショナリー・ロード」を思い出していました。
が、この作品のエヴァは本当の意味で強いです。
このケヴィンに対して、悪意という表現を遣いましたが、悪意というからには、
ちゃんと意思を持っての行為であり、態度なわけで、
彼が欲しかったもの、無意識に求めていたもの、それは決してあの悲劇ではなかったのだと思います。
子供は生まれる時期も、親も選べない。
それを私たちは知っていなければいけない。
そして、どんな親も、子供と一緒に悩み、学び、親になっていくのだということも。
放たれた矢はどこに向かったのか?
それを考える時、、ケヴィンの赤ちゃんの頃の鳴き声が甦り、彼の孤独の深さが胸を刺します。
仕事に生き甲斐を求めて、バリバリキャリアを積んでいるけど、結婚もしたい....。
そんな女性には、特に観て欲しいかも・・の作品でした。